『人民の星』 5360号4面

テレビ評 NHKドラマ『白洲次郎』 GHQに逆らったと描く

 戦前は近衛文麿のブレーンとして、戦後は吉田茂の側近として歴史の裏舞台で動いた白洲次郎がここ数年、テレビや雑誌などで、意図的にもちあげられている。NHKドラマスペシャル『白洲次郎』もその一つだが、第一部「カントリージェントルマンへの道」、第二部「一九四五年のクリスマス」があいついで放映された。
 いまから六三年前、日本の無条件降伏とアメリカ占領軍の日本支配を前に、「唯一、GHQと対等に渡りあった日本人」、マッカーサーをしかりつけた「従順ならざる唯一の日本人」としていま、白洲次郎が手放しで賛辞されているのだ。
 はたしてそうか。白洲次郎とはいったい、なにものか。

鼻もちならぬ支配階級の姿
 一九〇二年、芦屋の実業家の息子にうまれた白洲は、一七歳でイギリスのケンブリッジ大学に留学した。高級車ブガッティとベントレーをのりまわし、長身で完璧な英語をはなし、イギリス流のマナーを身につけた洗練された紳士として、アメリカ留学組の妻・正子とともに、正真正銘の日本の鼻持ちならぬブルジョア階級の出身である。
 留学中に金融恐慌で生家が没落、やむなく帰国後は、英字新聞の記者などをへて、戦前は首相の近衛文麿の、戦後は吉田茂の側近として、終戦連絡事務局次長として暗躍し、サンフランシスコ条約締結時や新憲法制定時にGHQと折衝をおこない、のち通商産業省や電源開発などにたずさわるなど、政財界のかげの黒幕だった男――それが白洲次郎なのだ。
 番組は冒頭、妻・正子(中谷美紀)の語り口で、老いて死期をさとった白洲次郎(伊勢谷友介)が、「極秘資料」との印がある書類を焼却する場面ではじまる。
 第一次近衛内閣誕生、軍部の台頭、父・白洲文平(奥田瑛二)の死、イギリス政府との和平交渉への密使、第三次近衛内閣総辞職、太平洋戦争開戦から、鶴川の家・武相荘で正子と子どもたちとの疎開暮らし、敗戦、近衛(岸部一徳)の戦犯指名と服毒自殺、吉田茂(原田芳雄)からたくみな英語をかわれてのGHQとの交渉まで、NHKは白洲次郎が、英米との和平をのぞみ、戦争に反対した平和主義者であり、占領軍と堂堂とわたりあう「従順ならざる唯一の日本人」としてえがいていく。

読売争議の指導者売り渡す

 だがGHQ内で、反共・人民運動弾圧を担当していたウィロビー少将のG2(情報局)にもっとも接近していたのが、当時の外相・吉田茂と、その秘書役の終戦連絡局次長の白洲次郎だったことは、あまねく知られている。白洲は吉田とともに敗戦後の共産革命を阻止し、日本支配階級から反米の牙をぬき、日本を反共の砦としようとしていたアメリカ占領軍に徹頭徹尾奉仕した「従順なる売国奴」であった。
 近年解禁された米英の機密文書をもとに「白洲次郎知られざる素顔」を書いたジャーナリストの徳本栄一郎は、白洲がその地位を利用して、読売新聞の労働争議の弾圧に重要な役割をはたしたことをあきらかにしている。
 高揚する労働運動・人民運動のなかでおこった読売争議の渦中で、窮地におちいった経営陣をたすけるため、白洲がGHQ渉外局長のフレイン・ベーカー准将をたずね、読売新聞業務局の幹部が作成した有力共産党員リストを持参し、ベーカーはこの白洲情報をもとに、馬場社長をよびつけ、読売の鈴木東民ら共産党員六人の名前をあげて解雇するようにしむけたのだ。
 当時、GHQ労働課長として読売争議にかかわったセオドア・コーエンは「こうして『読売新聞』業務局の一反共主義者による手書きのリストが、まるで錬金術のようにマッカーサー指令に変身してしまったのである」(『日本占領革命』)と書いている。

支配層の売国を隠すNHK
 またドラマは、敗戦直後のクリスマスイブに白洲が、吉田の名代で天皇の贈り物をマッカーサーにとどけるために第一生命ビルをたずねたさいに、「そのあたりにでもおいてくれ」と絨毯の上をさしたマッカーサーにたいし、血相をかえ「いやしくもかつて日本の統治者であった陛下からの贈り物を、その辺におけとはなにごとか」と怒り、「われわれは戦争にまけただけで奴隷になったわけではありません」と、贈り物をマッカーサーの前においてさる場面でおわっている。
 これは、まったくのでっちあげであった。
 占領期のぼうだいなGHQ文書のなかにその記録はなく、また当時の警護担当者も「白洲という人物は聞いたことがない。元帥と会う者は皆、事前の約束が必要だった。それがない者は中に入れなかった」と、証言している。
 それだけではない。白洲がマッカーサーへあてた手紙――英文タイプで「閣下の比類なき指導力に、心からの感謝と賞賛を表し、私が作った椅子をお贈りいたします。あなたの最も忠実な僕(しもべ) 白洲次郎」という書簡が発見されている。
 歴史の真実は、白洲次郎が「従順ならざる唯一の日本人」でも「マッカーサーを叱りつけた男」でもなく、アメリカ占領軍・マッカーサーに媚びへつらい、アメリカ帝国主義・日本独占の忠実なしもべとして、日本人民がたちあがって権力をとり、社会主義へすすむのをもっともおそれて暗躍した売国奴であったことを教えている。




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