「中東最強の軍隊」の侵攻をはばんだレバノン人民

 アメリカを後ろ盾としたイスラエル軍のレバノン侵攻は、レバノン人民の反撃をうけ敗北した。イスラエル軍の侵攻によって、イスラム系解放組織ヒズボラをつぶし、レバノンの反米勢力の台頭をはばみ、シリアやイランに戦争の脅しをかけようともくろんでいたブッシュ政府は、それが裏目にでたことにあせりを深めている。レバノン人民の反米の民族的団結はかつてなく高まっている。
 一カ月近くにわたるイスラエル軍の侵攻によってレバノンでは、一〇〇〇人以上が殺された。爆撃や砲撃などで、道路や橋、発電所、工場、民間居住区などが破壊され、八〇年代の内戦からの復興をようやくはたした経済も大きな打撃をうけた。だがレバノン人民は「中東最強の軍隊」といわれてきたイスラエル軍の侵攻をむかえうち、立ち往生させた。
 当初、空爆だけでかたがつくとたかをくくっていたイスラエル軍は、予備役の非常招集をかけ、数千だった地上部隊を一万五〇〇〇人に拡大し、戦車を先頭に国境から二〇`以上を北上したが、レバノン人民のゲリラ戦に苦戦をしいられた。「ヒズボラをつぶすまで」と、停戦に反対していたブッシュ政府は、急きょ、国連安保理で停戦決議を採択させ、イスラエル政府に浮き輪をなげ、事態の収拾をはからねばならなかった。

ヒズボラ勝利たたえる国々

 停戦が発効した一四日、ヒズボラは「イスラエルは戦争目的を達成できなかった。われわれは戦略的、歴史的勝利に直面している。これは誇張ではない。これはレバノンのすべての抵抗運動の、そして国家全体の勝利である」との勝利宣言をおこなった。また停戦決議がうたっているヒズボラの武装解除について「レバノン政府軍や国連レバノン暫定軍(UNIFEL)は戦争を阻止できずレバノンをまもれないので、いまは武装解除の時期ではない」とはっきりと拒否した。
 レバノン人民のなかでは、宗教宗派をこえた、反米の民族的な団結がかつてなくつよまっている。
 ブッシュ政府が脅しをかけようとしたイラン、シリアの両政府もヒズボラの勝利をたたえ、アメリカ、イスラエルとの斗争をよびかけた。イラン政府は「イスラエル軍が不敗かつ無敵だと語り、三〇日以内に大きな打撃をあたえると明言していた人人は、若者たちの力に屈した。若者たちがレバノン全土に勝利の旗をかかげている」(イラン大統領)とのべた。シリア政府は「イスラエルは軍用機やミサイル、核兵器でも“自衛”が不可能になる。アラブの未来世代は、イスラエルを打倒する方法をさがしだすだろう」(シリア大統領)と、その勝利の意義を強調した。
 アメリカ大統領ブッシュは、「ヒズボラがこの危機の敗者だ」とさけびたてた。だが、イスラエル政府や議会、軍のなかで、レバノン侵攻の敗北の責任のなすりあいがはじまり、ブッシュの反論もあえなくくだけちった。

イスラエル軍内部矛盾激化

 イスラエル軍は、一カ月あまりの戦斗で一一七人が戦死し、一〇〇〇人以上が負傷したが、招集された予備役の将校や兵士のなかからは「作戦がひんぱんに変更され、明確な目標もなしに敵の領土に長期間とどまるはめになった」(歩兵・落下傘部隊司令官)との批判が噴出し、政府や軍首脳に抗議するという異例の事態となった。
 追いつめられた国防相ペレツは「失敗を検証しなければならない」などと負け戦だったことをみとめている。軍関係者のなかであがっている「反省点」は、「予備役の訓練が不十分なため白兵戦において劣勢となった」「戦車一四台がヒズボラの対戦車ロケット砲に破壊された」「情報戦、諜報戦でやぶれた」などをあげており、レバノンに侵攻したイスラエル軍がレバノン人民に包囲され、いかに苦戦をしいられたかがうかがえる。
 ブッシュ政府とイスラエル軍は停戦にこぎつけ、事態の打開をはかろうとしているが、これもまったく思いどおりにならない。停戦決議は、レバノン南部へのレバノン軍、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)の展開をもりこんでいる。レバノン政府は、レバノン軍一万五〇〇〇人を展開させたが、ヒズボラの武装解除にはかかわらないことを明確にしている。ヒズボラは、ヒズボラ兵士を人民のなかにもどすとともに、イスラエル軍の攻撃で被災した人人の救援に力をそそいでいる。このため、ヒズボラへの人民の支持はいっそう高まっている。

国連軍に消極的な欧州諸国

 国連は、現在、約二〇〇〇人ほどの国連レバノン暫定軍を一万五〇〇〇人に増員することをきめた。しかし同軍への派兵をきめた国のなかで、バングラデシュ、インドネシア、マレーシアなどイスラム系諸国の軍隊について、イスラエルとたたかったヒズボラへの共感がつよいのではとの懸念から、イスラエル政府が拒否している。
 他方で、同軍の主力と期待されていた欧州諸国のなかでは、中東へ影響を拡大できる機会と見なしながらも、レバノン人民から怒りのほこさきをむけられるのではないかと心配し、大規模派兵には消極的なところが多い。欧州各国人民のなかでも、レバノン派兵に反対する声があがっている。
 ブッシュ政府は、欧州諸国にたいし「だれが主導するのかを明確にし、強大な交戦権限をあたえ、一刻も早く派遣するべきだ」(ブッシュ)と、派兵を再三にわたって要求した。これで、イタリア政府が二〇〇〇〜三〇〇〇人の派兵をきめ、当初、二〇〇人にとどめようしていたフランス政府もしかたなく二〇〇〇人へと派兵拡大をきめ、国連レバノン暫定軍の増員にようやくめどがつきはじめた。だが、欧州諸国政府はレバノン人民をおそれ、ヒズボラの武装解除に尻込みしている。国連レバノン暫定軍の司令官(仏軍少将)は、ヒズボラの武装解除について「レバノン政府軍の仕事だ」とのべている。

反米の民族的な団結強まる

 イスラエル軍の侵攻をはばんだヒズボラとレバノン人民を力で武装解除することは、レバノン政府軍はもちろん、国連レバノン暫定軍でもできないことはあきらかである。だからといって米軍を派兵することはできない。米軍はイラク占領で手一杯であるし、レバノンに派兵したならイスラエル軍侵攻をはるかにうわまわるレバノン人民の攻撃にさらされるのはあきらかだからである。
 ブッシュ政府は、イラクでの占領破たんのなかで、パレスチナやレバノンでの反米勢力の台頭に危機感をつのらせ、イスラエル軍を侵攻させたが、完全に裏目にでている。反米勢力をおさえるどころか、それをいっそういきおいづかせる結果をまねいている。
 人民が団結してたたかえば「中東最強の軍隊」をうちやぶることができるし、アメリカ製の最新兵器による殺りくや破壊も人民の怒りをおしつぶすことができない。
 危機を深めるブッシュ政府は、ふたたびイスラエル軍をつかうなどして、戦争に活路を得ようとするだろう。だが、アメリカが殺りくや破壊を拡大することで、ますます危機を深めるというのがいまの中東、世界の実際である。いつまで停戦がつづくかわからないが、レバノンやイラク、パレスチナ、イラン、シリアなどでの反米斗争の発展をおしとどめることはできない。




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